
目次
交叉咬合による噛みにくさの原因と治療の選び方
大人の交叉咬合で噛みにくい原因は、歯の傾きにあるか、顎の骨格や噛むときの動きにあるかによって異なり、検討される治療方法も変わります。
この記事では、噛みにくさが起こるしくみと、歯科用CT・セファロ・iTeroを使った検査で何を確かめるのかをまとめました。歯を動かす矯正と外科的矯正のちがい、治療にかかる期間や費用の見通し、相談の前にまとめておきたい質問もお伝えします。
この記事の要点まとめ
- 噛みにくさの原因は、歯の傾き・あごの骨の幅や位置・噛むときのあごの動きなど、人によってちがいます。
- CTやセファロ、iTeroなどで歯ならびやあごの骨を調べ、お口の中のようすもあわせて見たうえで診断します。
- 治療には歯を動かす矯正や、あごの手術をあわせる外科的矯正があり、期間や費用、装置を相談して決めます。
- 大人の交叉咬合では、なぜ噛みにくくなるのですか?
- 歯科では、どのような検査で噛みにくさの原因を調べるのですか?
- 矯正だけで対応する場合と、外科的な治療を検討する場合は何が違うのですか?
- 治療方法はどう決め、相談前に何を整理しておけばよいですか?
- よくある質問
- 参考文献
- 監修
大人の交叉咬合では、なぜ噛みにくくなるのですか?
上下の歯の内外の関係が部分的に逆になることで、食べ物を噛み切る・すり潰す動きが妨げられます。ただし、原因は歯の傾きや顎骨の構造、噛むときの顎の動きなど人によって異なり、交叉咬合以外の要因が重なっていることもあります。
上下の歯の内外が逆になると、噛み切る・すり潰す動きが妨げられる
交叉咬合(クロスバイト)とは、上の歯が下の歯より内側に入るなど、上下の歯の重なりが通常と逆になった状態です。ズレがある位置が前歯か奥歯か、片側か両側かといった範囲によって、肉や葉物の噛み切りにくさや奥歯でのすり潰しにくさの出方が変わります。
歯の傾きによるものか、顎骨の幅や位置によるものかで性質が異なる
交叉咬合には、おもに歯の傾きが原因のもの(歯性)、上あごの幅がせまいなど骨のかたちが関わるもの(骨格性)、噛むときに下あごが横や前へずれるもの(機能性)があります。上あごの幅が足りない状態は、歯の重なりや傾きのくずれ、歯を支える骨が足りないことをともなうことが多くあります1。見かけだけの受け口と骨のかたちによる受け口は、見た目や歯ならびの写真だけでは区別しにくく、見分ける必要があります。
噛みにくさを交叉咬合だけの問題と決めず、まず口腔内の状態を確認する
当院では、矯正前の検査でむし歯や歯周病が見つかったときは、その治療を先に行います。歯ならびの治療を急ぐより、お口の病気への対応を先にしています。噛みにくさには、噛み合う相手の歯が伸びてくること(挺出:ていしゅつ)や、舌のくせなどが関わることもあります。
なお、噛みにくさが急に悪くなった、あごが痛む、口が開きにくいといった症状があるときは、矯正の相談より先に早めに歯科を受診してください。
歯科では、どのような検査で噛みにくさの原因を調べるのですか?

歯ならびの見た目や表面の画像だけで、矯正ができるかどうかや手術が必要かどうかは決めません。歯とあごの骨のつくり、骨格のバランス、交叉咬合がどこにどのくらいあるか、噛むときのあごの動きをあわせて確かめます。
CT・セファロで歯や顎骨の構造と骨格のバランスを調べる
当院では、矯正の検査に歯科用CTとセファロ(頭部X線規格写真)を使っています。歯ならびのデータだけでなく、歯やあごの骨のつくり、骨格のバランスも治療の計画に取り入れます。
CTでは、目では見えない歯の根の向きやあごの骨のかたちを立体的に見ます。セファロでは、横顔のX線写真から上下のあごの前後の位置を調べます。上あごの幅の不足が奥歯の傾きに隠れている場合はCTで、下あごが前へずれる噛み合わせはセファロで調べます。
一般的には、口を閉じる途中で下あごが横へずれていないかを診たり、歯の模型やスキャンデータで上下の噛み合わせを確かめたりして、下あごの横へのずれを調べます。
iTeroでは歯型と歯並びの変化を確認し、治療の説明に役立てる
当院では、3D口腔内スキャナー「iTero」を使用して歯型を取得し、歯並びの変化を3次元画像で確認する仕組みを治療前の説明に用いています。小型カメラで歯列をなぞるだけで歯型をデータ化できる機器です。CTやセファロが歯の根や顎骨・骨格のバランスを調べるのに対し、iTeroは現在の歯型と歯並びの把握および説明に使うという役割の違いがあります。なお、3次元画像によるシミュレーションは治療計画の理解を助けるためのものであり、治療結果の保証や骨格診断の代わりになるものではありません。
検査結果を踏まえた矯正診断と治療設計は理事長が担当する
当院では、矯正診断と治療設計を歯学博士である理事長の長坂健央が全て担当しています。検査機器でデータを集めるだけで終わらせず、CT・セファロ・iTeroの情報と口腔内のむし歯や歯周病の状況を踏まえ、審美性と機能性の両面から一人ひとりに合った治療方針を判断します。歯をきれいに並べるだけではなく、将来にわたって長期的に噛める状態を見据えて治療計画を立てるようにしています。
ポイント
歯列の表面データだけでなく、CTやセファロで歯の根や顎骨・骨格のバランスを調べたうえで治療計画を立てます。
矯正だけで対応する場合と、外科的な治療を検討する場合は何が違うのですか?
歯の傾きが主な原因であれば歯の移動を中心とした矯正で対応を検討でき、顎骨の位置や大きさのズレが大きい場合には外科的矯正が検討されることがあります。ただし、実際の判断は検査結果によって個別に異なります。
歯の移動で対応を検討できる場合と、外科的矯正が検討される場合
歯性の要素が中心であれば矯正装置による歯の移動で対応を検討し、骨格的なズレが大きい場合は顎の骨の手術を併用する外科的矯正が選択肢に入ります。ただし、骨格性の要素がある不正咬合でも、歯を支える骨の条件や患者様の希望によっては手術を行わずに歯の移動で噛み合わせを整える方法が選ばれた報告もあります2。また、大人では歯のすり減りや噛み合わせの高さの変化が関わる場合もあり3、顔や歯並びの写真だけでは治療法を判断できません。
「長年放置したから顎の手術が必要」とは限らない
子どもの頃に噛み合わせを指摘されたまま大人になった方の中には、「長年放置したから顎の骨の手術が必要になるのではないか」と心配される方もいらっしゃいます。しかし、外科処置の必要性は放置した年数ではなく、現在の歯の傾き・顎骨の厚み・骨格の状態で判断されます。反対に「マウスピースなら手軽に済む」と装置から先に決めることも避け、まずは口腔内の確認と骨格を含めた診査の順番を踏むことが大切です。
期間・通院頻度・費用の目安と保険適用の条件
当院での治療期間の目安は、早い方で約1年、長い方で2年半ほどです。通院はワイヤー矯正で月に1度、マウスピース矯正で2〜3ヶ月に1度が目安となります。どちらも歯ならびや噛み合わせの状態によって前後します。
矯正治療の多くは、健康保険が使えない自費診療です。保険が使えるのは、あごの骨のかたちに大きなずれがある「顎変形症」と診断され、決められた医院で手術をあわせた矯正を受けるときなど、かぎられた場合だけです。
当院の料金は、マウスピースによる全体矯正が税込660,000円、ワイヤー矯正が税込880,000円です。このほかに、精密検査代と保定検査料がそれぞれ税込5.5万円かかります。相談のときは、初診・精密検査・装置・調整料・保定装置(リテーナー)など、費用の内わけをご確認ください。
なお、矯正治療では、装置をつけ始めたころの痛みや違和感、歯の根が短くなる、歯ぐきが下がる、治療後に歯が元に戻ろうとするといったリスクや副作用が起こることがあります。出かたには個人差があります。
治療方法はどう決め、相談前に何を整理しておけばよいですか?
矯正装置は、検査と診断のあとに、歯ならびのようすと暮らしの中でのご希望をあわせて選びます。相談したからといって、すぐに治療を始めるわけではありません。気になることや聞きたいことをまとめて受診し、いったん持ち帰って考えていただいてかまいません。
装置は先に決めず、歯並びの条件と生活上の希望を踏まえて選ぶ
当院では、マウスピース矯正(インビザライン)と、目立ちにくいセラミックブラケットを使う表側のブラケット矯正を用意しています。歯の裏側につけるハーフリンガル・フルリンガルの舌側矯正もあり、患者様のご希望と歯ならびに合わせて選んでいます。目立ちにくさの希望だけでマウスピース矯正に限定せず、歯を大きく動かす必要がある場合などにはブラケット矯正も選択肢としてご提案いたします。
なお、どの装置が成人の交叉咬合すべてに対応するとは一概に言えません。職場での会話や昼食への影響は装置の種類や個人によって異なり、口腔内の形態や装置の位置が発音(構音)に関わりうる点4も含めて事前に確認しておくことが大切です。
費用や生活への影響を確認し、持ち帰って検討してから治療を決める
当院では、患者様の同意なく矯正を開始することはなく、同意をいただいた後も1週間経過後以降に治療を開始する手順をとっています。「一度持ち帰って再検討したい」「別の治療を選択したい」というお申し出も受け付けており、無理に治療をおすすめすることもございません。当院は名古屋駅出口徒歩1分の場所にあり、通勤経路の途中でまずお話だけ聞いてみたいという段階でもご利用いただけます。お一人で抱え込まず、ご家庭の予定や家計と照らし合わせながらご相談ください。
受診前にメモしておきたい症状と、相談時に聞きたい質問
受診前にご自身の状態を整理しておくと、限られた相談時間でも疑問を解消しやすくなります。
- 受診前にメモしておきたい症状:噛みにくい食べ物(肉や葉物など)と、ふだん噛んでいる側のかたよりを書いておきましょう。症状に気づいたころとその後の変わりかた、子どものころに歯科で言われたことも役に立ちます。あごの痛み・関節の音・口の開けにくさがあるかもメモしておきましょう。
- 相談時に確認したい質問:噛みにくさの原因は歯の傾きか骨格か、どの検査が必要か、外科的矯正の可能性はあるか。治療期間と通院の回数の見通し、保定まで含めた費用の内わけと保険が使えるか、装置による食事や会話への影響も聞いておきましょう。
まずはこれらのメモを手元に用意し、ご自身の口腔内の状態と検査の必要性を確かめるところから始めてみてください。
よくある質問
Q. 反対咬合と交叉咬合はどのように違うのですか?
A. 反対咬合(受け口)は、おもに下の前歯が上の前歯より前に出ている状態です。交叉咬合は、前歯や奥歯のどこかで、上下の歯の内と外の重なりが一部またはぜんぶ逆になっている状態をいいます。上下の歯ならびが交わるようにずれているため、クロスバイトとも呼ばれます。
Q. 噛み合わせが深い場合や舌の癖も、噛みにくさに関係しますか?
A. 噛み合わせが深い状態(過蓋咬合)が重なっていると、下顎の自由な動きが制限されてすり潰しにくさを感じることがあります。また、無意識に舌で歯を押したり上下の歯で舌を咬んだりする癖が、噛み合わせや発音に関わることもあります。
Q. 顎がカクカク鳴ったり口が開きにくかったりする場合、顎関節症でしょうか?
A. あごの関節から音がする、あごが痛む、口が大きく開かないといった症状があるときは、顎関節症の可能性があります。顎関節症には、あごを動かす筋肉の痛みが中心のもの、関節の痛みが中心のもの、関節の中のクッション(関節円板)がずれるもの、関節の骨のかたちが変わるものがあります5。自分では見分けにくいため、矯正の相談の前に症状を歯科医師へ伝え、あごの関節を診てもらうことをおすすめします。
Q. 矯正後に使うリテーナー(保定装置)が浮く・痛いときはどうすればよいですか?
A. 矯正装置を外した後の歯は元の位置へ戻ろうとするため、リテーナーの装着時間が不足すると装置が浮いたり、久しぶりに装着した際に痛みやきつさを感じたりすることがあります。無理に押し込むと歯や歯ぐきに負担がかかるため、早めに歯科医院へ連絡して適合状態を確認してもらってください。
参考文献
1. Evans M, Berant D. Innovations in Orthodontics: Skeletal Versus Dentoalveolar Expansion Utilizing Clear Aligners and TAD-Assisted Expanders. Compendium of continuing education in dentistry (Jamesburg, N.J. : 1995). 2024. PMID: 38622082
2. Tseng LL, Chang CH, Roberts WE. Diagnosis and conservative treatment of skeletal Class III malocclusion with anterior crossbite and asymmetric maxillary crowding. American journal of orthodontics and dentofacial orthopedics : official publication of the American Association of Orthodontists, its constituent societies, and the American Board of Orthodontics. 2016. PMID: 27021460 / DOI: 10.1016/j.ajodo.2015.04.042
3. Vahidi F. Minimally Invasive Treatment of an Adult with Severe Pseudo Class III Malocclusion. Journal of prosthodontics : official journal of the American College of Prosthodontists. 2019. PMID: 29882338 / DOI: 10.1111/jopr.12924
4. 公益社団法人 日本歯科医師会 テーマパーク8020「言語機能と構音障害」 https://www.jda.or.jp/park/relation/language_02.html
5. 顎関節症とは|一般社団法人日本顎関節学会. https://kokuhoken.net/jstmj/general/about_tmd.html
6. 公益社団法人 日本歯科医師会 Happy Smile Vol.30「歯科医療の現場から お口の健康と全身の健康の関係」 https://www.jda.or.jp/happysmile/vol30/shikai/
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